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  パニック障害

こんな人に多い病気です。

 突然、何の前触れもなく呼吸が苦しくなり、動悸やめまいがして、このまま死んでしまうのではないか、発狂するのではないかといった激しい不安と恐怖感に襲われる。こんな経験をしたことはないでしょうか。
  こうした症状は心臓や呼吸器の病気などいろいろな病気でも起こりうるものです。しかし、病院で検査をしても体にはとくに異常がなく、しかもパニック発作を繰り返す場合、パニック障害(パニック・ディスオーダー)の可能性も考えてみる必要があるかもしれません。
 パニック障害は、最近一般的な心の病気とは少し性格が異なるものとして注目されている病気です。うつ状態など心の病気は、よく神経質な人や生真面 目で融通がきかない人、完璧主義の人などに多いと言われます。しかし、パニック障害は、専門的に言うと「生物学的要因」が強い病気といわれています。簡単にいうと、遺伝的な体質や脳の中で情報伝達に働く物質に問題があるらしいのです。実際に、パニック障害の人には、その家族にもパニック障害のいる人が多いというデータもあります。こうした素因のある人に、ストレスなどが重なって病気が発症すると考えられています。
 したがって、パニック障害にはこういう人がなりやすいという性格傾向はとくにありません。 ただ、一般的には女性は男性の2倍ぐらい患者が多く、とくに20代から30代の女性に患者が多いことが知られています。世界各国の統計によると、年間100人に1〜2人がパニック障害になるといわれ、かなり多い病気と考えられています。
 しかし、問題が一種の体質にあるだけに早期に薬で治療を行えば、他の精神疾患に比べて治りやすいといわれています。慢性化するほど症状は複雑になり、治療もやっかいになります。 まだ、病気としての歴史が浅いので、パニック障害とわからないまま病院を転々とし、苦しんでいる人も少なくないと見られています。思い当たることがあれば、できるだけ早く精神科か心療内科を受診して相談してみましょう。


こんな症状が起こります。

パニック発作の症状(DSM-IV)
1. 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
2. 発汗
3. 身震いや震え(身体や手足の震え)
4. 息切れ感や息苦しさ
5. 窒息感
6. 腰痛、あるいは腹部不快感
7. 吐き気、あるいは腹部の不快感
8. めまい感、ふらつき、頭がぼんやりする感じ、または気が遠くなる感じ
9. 現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分自身から離れている感じ)
10. コントロールを失う(あるいは、自制心を失う、気が狂う)ことに対する恐怖
11. 死に対する恐怖
12. 異常感覚(手足のしびれなど感覚麻痺やうずき感)
13. 冷感、または熱感
高橋三郎ほか訳
「DSM-IV精神疾患の分類と診断の手引き」
医学書院[東京]、1995より改変
 パニック障害は、何の前触れもなく突然パニック発作に襲われること、そして発作をたびたび繰り返し、また発作に襲われるのではないかという不安(予期不安)が続くことが大きな特徴です。
 パニック発作の症状には、表のようにさまざまなものがありますが、とくにパニック障害で多いのは、動悸やめまい、呼吸困難などです。とくに、最初の発作はある日突然、青天の霹靂のように起こります。高所恐怖症の人ならば、高いビルの屋上から下を見下ろしたとき、あるいは吹き抜けの階段から下を見たときなどに、激しい恐怖に襲われ心臓がドキドキしてパニック発作が起こります。発作の起こる条件があるわけです。ところが、パニック障害の場合はいつ、どこで発作が起こるか全く予測がつかないのです。
 食事中や車を運転している時に起こることもあれば、電車の中や美容院、買い物中に発作が起こることもあります。たとえば、A子さんの場合は、通勤途中の電車の中で発作が突然起こりました。
 いつものように吊り革につかまって新聞を読んでいると、突然手足がしびれるような感覚に襲われ、おかしいなと思っているうちに動悸が激しくなり、のどがふさがって息ができなくなってしまったのです。この時、A子さんはこのまま死んでしまうのだという激しい恐怖にとらわれ、電車から飛び下りたい衝動にかられたといいます。
ただちに救急車で病院にかつぎこまれましたが、病院に到着した時点ではすでに発作はおさまり、検査の結果にも異常はありませんでした。そのため、自律神経失調症という病名で片づけられてしまいました。
しかし、その後もA子さんはたびたび発作に襲われ、やがて発作が怖くて外出することもできなくなってしまったのです。
パニック障害の発作は、いくつかの体の症状とともに、死ぬのではないか、や発狂するのではないかという恐怖感、あるいは車や電車から飛び下りてしまいそうになる、つまり「自分をコントロールできない恐怖」にとらわれることも特徴です。しかし、発作そのものはたいてい1時間以内におさまります。そのため、病院に到着した頃には症状も消え、A子さんのように自律神経失調症と言われたり、心臓神経症、過呼吸症候群などと診断されることも多かったのです。時には異常がないから治療の必要もありませんと言われることもありました。
 しかし、こうした発作を繰り返すうちに、病気はより悪化していくことが少なくないのです。



放置するとこんなことに

 最初は、全く突然のできごとであったパニック発作も、何度か繰り返す間に患者さんに変化が現れてきます。
 パニック障害という診断がつかないと、患者さんはたびたび襲われる発作の原因を何とか突き止めたいと思うものです。そのため、動悸やめまいなど体の症状に注目して、どこか体の具合が悪いに違いないとあちこちの病院をまわることになります。そして、また発作が起こるのではないかという不安のために、以前発作を起こした場所を避けるようになるのです。
 たとえば、急行電車で発作を起こした人は電車から飛び下りたい衝動にかられながら、なかなか下車できませんでした。そのために、発作の恐怖から急行電車に乗れなくなってしまったのです。実際に、また急行電車に乗ると発作が起こるのではないかという不安感がつのってくると、本当に急行にのったとたん発作が起こることも少なくないのです。新幹線はダメという人も、車に乗れなくなる人もいます。あるいは、エレベータや高速道路など発作が起きてもすぐに助けを呼べないところを避けるようになることもあります。
 その結果、ひどくなると買い物にも会社にも行けなくなり、家に閉じこもりになってしまうこともあるのです。家族と一緒でないといられないという場合もあります。
 こうしてどんどん行動範囲が狭くなり、精神的にも肉体的にも落ち込んで、うつ状態に落ち込んでいくことも少なくありません。実際に、慢性化したパニック障害ではうつ病などを合併する率も高いといわれています。
 このように、パニック障害は診断がつかずに放置されたり、そのままにしておくと発作の恐怖からやがて日常生活が大きく障害されることになり、さらにうつ病へと進展していくことが大きな問題点なのです。



なぜ、パニック障害になるのか。

 パニック障害は、一種の体質をベースに起こると考えられています。とくに、注目されているのは、脳の中で情報伝達に働く化学物質です。脳の中では、ノルアドレナリンやセロトニンなどの化学物質が、神経細胞から神経細胞への情報伝達に働いています。こうした物質がバランスよく働くことで、心も正常な働きを保っているのですが、もともとある種の体質をもった人に、引っ越しや転勤、昇進、人間関係の軋轢などさまざまなストレスが加わることでパニック障害が起こると考えられています。しかし、逆にいえばこうした化学物質のバランスを薬で回復させることができれば、パニック障害は治りやすいともいえるのです。


診断の方法

 まず、他の体の病気や精神疾患が原因で起きている症状ではないことを確かめる必要があります。その上でとくに異常が認められない場合、診断基準にそって診断が行われます。
基本的には、
  1.予期しないパニック発作が繰り返し起こること
  2.最初の発作が起きてから1カ月以上、次のような状態のうち1つ以上が続く。
    a: また発作が起こるのではないかという不安が続く。
    b: 発作や発作によって自分をコントロールできなくなったり、発狂する、心臓発作を起こすなどの心配が続く。
    c: 発作に関連して、特定の場所を避けるなど行動に大きな変化がある。
などの状態をみます。


治療の方法は

 基本的には、薬によるパニック発作のコントロールが治療の中心になりますが、病気の理解も非常に大切です。
 パニック障害の人は、なかなか診断がつかず、苦しんでいる人が少なくありません。死を間近に感じるほど強い恐怖感におびえているのに、病院では異常なしと言われたり、さまざまな病名を付けられることもあります。片手に余るほどの病院を受診し、それでも診断がつかなかったという人もいます。こうした人が、パニック障害はもともとの体質に起因する病気であり、薬で良くなることを理解すると、それだけで心の負担がどれだけ軽くなるかわからないのです。病名がわかり、苦しい発作を理解してくれる医師にめぐり合うことができたこと、そして薬で治療できることを知ると、それだけで症状が軽くなる人も少なくないと言います。
 発作のコントロールには、薬と認知行動療法などがあります。

○薬物療法

 抗不安薬と抗うつ薬が中心です。従来使われてきた抗うつ薬(三環系抗うつ薬)には、便秘、立ちくらみ、のどが乾くなどの副作用があり、必ずしも使いやすいとはいいにくい面 もありました。しかし、最近は新しいタイプの抗うつ薬も登場し、治療の幅が広がっています。
 一般的には、まず効果の早い抗不安薬を使ってパニック発作をコントロールし、それでも十分でない場合などに抗うつ薬が使われます。新しいタイプの抗うつ薬は、脳で働く特定の化学物質だけに作用するので、従来の抗うつ薬に比べて副作用も少ないといわれています。定まった期間はありませんが、ある程度長期に薬を服用する必要があるので、副作用が少ないことは大きなメリットといえるでしょう。

○認知行動療法
 薬によって、パニック発作をコントロールすると同時に、パニック障害で重視されているのが認知行動療法です。
 パニック障害の人は、体の症状に神経質になってさらに不安を助長するという悪循環に陥っています。こうした悪循環を断ち切るために、リラックス法を身につけたり、脈拍を自分で数えて落ちつくことなどを学びます。一方、パニック発作によって特定の場所や状況を避けている場合には、あえてそうした状況に直面 してもらい、すこしづつ慣れてもらいます。
 たとえば、電車に乗れない人ならば、今日は駅まで、次には一駅だけ電車に乗る、さらに乗る距離を増やしていって辛くなったら下車するという具合です。一人で行動することが怖いというのならば、医師や看護婦、家族などに見守ってもらいながら、少しづつ家や病院から離れる距離を伸ばしていきます。こうして少しづつ自信をつけながら、恐怖感を克服していくのです。こうした恐怖感の克服にも、新しいタイプの抗うつ薬が役立つのではないかといわれています。
 こうした薬の服用や認知行動療法などによって、多くの人はパニック障害を克服することができるようになります。少し症状は残っても、より日常生活を自由に過ごすことができるようになります。そのためにも、治療はできるだけ早く始めた方が効果 は高いと言われています。


監修者:(慶応義塾大学 教授 大野裕先生)

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