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  乳がん

こんな人に多い病気です

イラスト
  アメリカでは、女性の8人に1人が乳がんになるといわれます。それに比べると、日本は乳がんの少ない国といわれ、現在も3分の1程度です。とはいっても、日本でも乳がんは増加の一途をたどり、1960年には1700人足らずだった乳がん死亡者が、現在は9000人近くにのぼっています。40年ほどの間に、5倍以上も乳がん死亡者が増加し、欧米に追従しているのです。実際に乳がんにかかる人の数は、年間3万人を越えると見られ、女性のがんの第1位になっています。

 これほど、乳がんが増えた背景には、女性のライフスタイルの変化や食生活の変化などが影響していると考えられています。乳がんは「ホルモン依存性のがん」といわれ、エストロゲンという女性ホルモンががんの発生に深く関わっています。

 エストロゲンは、月経など女性の体で重要な働きをしているホルモンですが、その一方で乳がんを促進する方向に働くのです。

 ところが、現在の豊かな生活は、女性がエストロゲンを分泌する期間を長くしています。豊かになった食生活の影響で、初潮を迎える時期は早くなり、逆に閉経は遅くなっています。また、女性の社会進出も進み、晩婚、高齢出産、さらに少子化、あるいは子供を生まない女性も増えてきました。その結果、妊娠・授乳によるエストロゲンの分泌停止期間も短くなり、結果としてエストロゲンが分泌される期間が長くなっているのです。動物性脂肪の多い食事や高カロリーの食事が、エストロゲンを介して乳がんの危険を高めるという統計的なデータも報告されています。つまり、豊かな現代生活が、乳がんを増やす方向に働いているのです。

 また、最近は日本でも閉経後の乳がんが増加する傾向にあります。閉経になれば、卵巣からのエストロゲンの分泌も止まるのだから、乳がんにはなりにくくなるのではないか、と思う人もいるかもしれません。ところが、閉経後も副腎から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンが、脂肪組織でエストロゲンに変換されています。
 したがって、閉経後は脂肪組織の多い人、つまり肥満した女性に乳がんの危険が高いと指摘されています。もちろん、肥満だけが原因というわけではありませんが、少なくとも肥満は避けた方がいいと考えられています。

 しかし、幸い乳がんは割合早い段階から自分で発見することが可能で、集団検診にも乳がん検診が用意されています。そのおかげで、早期に発見される人が多く、がんの中では治る率が高いがんに入っています。30代に入ったら、乳がんの危険年齢です。自己検診と、定期的な専門家による検診を受けて早期発見の機会を失わないようにしましょう。また、母親や姉妹に乳がんの人がいれば、いっそう注意をして検診を受けたいものです。



乳がんの症状

 乳房には、お乳を産生して運ぶ乳管という管が放射線状に走っています。乳がんの大部分は、この乳管(乳管上皮)から発生します。

 がんは、早期には症状に乏しく、がん特有の症状がないのがふつうです。そのため、発見が遅れることにもなりやすいのですが、乳がんの場合は体の表面に近いので、外から触れたり、形の変化などから、がんを捕らえることができるのが、大きな特徴です。

 まず、乳がんは5ミリから1センチぐらいの大きさになると、自分で注意して触るとシコリがあることがわかります。シコリはむしろ、乳腺症などがんではない場合の方が多いのですが、痛みのないシコリは乳がんの特徴のひとつ。シコリを見つけたら、病院で検査を受けるべきです。さらに、乳がんが乳房の皮膚近くに達すると、エクボのようなくぼみやひきつれができたりします。

 こうした乳房の変化をとらえるために、ぜひ実行したいのが自己検診です。  女性の場合、生理周期にともなって乳房の状態が変化します。そこで、月経が終了して1週間後ぐらいを目安に、自分の乳房をチェックする習慣を付けましょう。閉経後は、たとえば自分の誕生日の日付けに合わせるなど月に一度チェック日を決めておきます。こうして、自分の乳房のふだんの状態を知っておくと、異常があった時にすぐにわかるのです。

 自己触診は、目で乳房の状態を観察することと、手で触れて乳房や脇の下のシコリの有無をみるのが基本です。鏡に向かって立ち、両手を下げた状態と上げた状態で、乳房の状態をチェックします。具体的には、
  • 乳首が左右どちらかに引っ張られたり、乳首の陥没やただれがないか。
  • 乳房に、エクボのようなくぼみやひきつれがないか。
  • 乳首を軽くつまんで、血液や分泌液が出ないか
といった点に注意します。さらに、乳房を手の指の腹で触り、シコリの有無をチェックします。指をそろえて、指の腹全体で乳房全体を円を描くように触ります。乳房の内側と外側をていねいにさすってみましょう。腕を下げたポーズと腕を上げたポーズで左右両方の乳房をチェックします。

乳房のシコリの有無、さらに脇の下にグリグリ(リンパ節の腫れ)がないかどうかもチェックします。

 慣れてくると、小さなシコリでもわかるようになります。乳腺炎乳腺症など、乳がんと同じようなシコリを作る病気もありますが、素人判断は禁物です。また、専門家によって自己触診では見つからないようながんが発見されることもありますから、定期検診を忘れずに受けましょう。



乳がんの検査

 乳がんは乳腺外科、あるいは外科で専門的に扱う場合がほとんどです。

 検査は、視診と触診、さらにマンモグラフィが中心ですが、超音波検査(エコー)もよく利用されています。

●マンモグラフィ
 乳房用のレントゲン検査で、早期乳がんの発見率を向上させた立役者といってもいいでしょう。乳房全体をプラスチックの板などではさみ、左右上下方向からレントゲン写真をとります。乳房のシコリだけではなく、石灰化像といって、シコリとして感じられないような小さながんの変化も捕らえることができます。この段階で発見できれば、乳がんもごく早期であることがほとんどです。それによって、乳房を残したままがんを治療することも可能になるのです。

 残念ながら、まだ日本では乳がん検診にアメリカほどマンモグラフィが普及していません。検診は、触診や視診だけではなく、マンモグラフィの検査が含まれているかどうかを確認した方が安心です。

●超音波検査
 超音波を発する端子を乳房にあてて、その跳ね返りを画像にするものです。痛みなどはなく、患者にとっても受けやすい検査です。超音波検査でも、自分ではわからないような小さな乳がんを発見することが可能です。

 さらに、シコリや石灰化像などがんが疑われる兆候が発見された場合には、良性かがんかを判断する検査が行われます。従来、穿刺吸引細胞診、針生検(コア針生検)や切開生検が中心に行われていましたが、最近マンモトーム生検という検査法が登場し、注目されています。

●穿刺吸引細胞診
 注射針をシコリに刺して一部の細胞を吸引してとり、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査です。患者さんの体への負担が少ないのが利点ですが、とくにシコリに触れないような小さながんなどは、この方法では診断できないことも少なくありません。

* 針生検
 少し太めの針(コア針)で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査です。患者さんの体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は、何度も刺す必要があったり、場合によっては、診断がつかないこともあります。

●切開生検
 乳房にメスで切開を入れ、がんと思われる部位の組織を一部とってきて、顕微鏡で調べる検査です。穿刺吸引細胞診や針生検で、確定診断ができない合に行われてきましたが、外科手術になるので、患者さんの負担が大きいのが欠点です 。

●マンモトーム生検
 超音波やマンモグラフィで見ながら、疑わしい部分に針(マンモトーム)を刺して、自動的に組織の一部を吸引してきます。これを、顕微鏡で検査します。広範囲の組織がとれて、切開生検より傷が小さく、縫合などの必要がないのが利点です。とくに、シコリとして触れない小さながんや石灰化の段階のがんの診断に力を発揮します。

 また、転移の有無を調べるには、胸や骨のレントゲン検査、CT、超音波検査、アイソトープ検査などが行われます。



図1 図2 図3 図4 図5
乳房内の病変をマンモグラフィーで見ながら、直径3ミリの針を刺す。 1.病変に刺す 2.組織を吸引 3.カッターで切除 マンモトームを乳房から抜いた後、傷口はテープで止める。糸で縫う必要はなく、1カ月程度で目立たなくなる。


乳がんの進み方

 乳がんとわかった場合には、MRI(磁気共鳴画像診断)やCTなどの検査でがんがどの程度広がっているか、他の部位に転移しているかどうかなどが調べられます。その程度や進み方によって、治療の方針が決められることになります。

 乳がんの場合、0期からIV期までに分類されています。

 乳がんの多くは乳管に発生しますが、ここにとどまっているものが、0期です。これはごく早期の乳がんです。I期は、しこりの大きさが2センチ以下で脇の下のリンパ節に転移していないもの。つまり、乳房の外に広がっていないと思われるがんです。同じ大きさでも、脇の下のリンパ節に転移していると思われる状態のものは、II期になります。あるいはリンパ節転移の有無にかかわらず2センチを超え、5センチ以下のものもII期と診断されます。

 乳がんの場合、8割前後の人がII期までの段階で発見されています。ふつうがんは、手術後5年間生存していれば治ったとみなされますが、乳がんはがんの増殖スピードが遅いので、10年生存率を治癒の目安にしています。I期ならば10年生存率は9割近く、II期でも7割を越えています(「がん検診の評価」より)。乳がんが、治る率の高いがんと言われるのも、ここに原因があります。

 III期は、IIIa期とIIIb期に分類されています。IIIa期は、しこりの大きさが5センチ以上、あるいはリンパ節転移が確実な状態です。IIIb期は、シコリが、肋骨や胸の筋肉にしっかりと固定されたり、皮膚まで顔を出しているような状態。あるいは鎖骨のリンパ節に転移がある状態です。他の臓器に転移するようになるとIV期になります。進行がんと呼ばれるのは、III期とIV期です。


乳がんの治療法

 乳がんは、がんの中でもさまざまな治療が効くがんで、がんの進みかただけではなく、がんの性質に応じて治療法が選択され、これを組み合わせて治療が行われています。基本は手術によるがんの摘出ですが、ホルモン療法や抗がん剤治療、放射線治療も効果があり、さらに最近は再発乳がんを対象に抗体療法も行われています。

〔手術〕
 基本的には、IIIa期までの乳がんは手術を中心に治療が行われます。手術にも、いくつかの方法があります。長い間、乳がんはハルステッド法といって、乳房と一緒に胸の大小の筋肉や脇の下のリンパ節を切除する方法が中心でした。これによって、乳がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、この手術は胸の筋肉をとってしまうため、肋骨が浮き出るなど美容的な問題に加え、腕を動かしにくくなったり、むくみ(リンパ浮腫)が出るなどの障害が出やすいのが難点でした。ところが、その後乳がんも早期発見が多くなったため、ハルステッド法のように大きな手術をすることは少なくなりました。現在では、がんが胸の筋肉に深く食い込んでいる場合などごく一部をのぞいてハルステッド法はほとんど行われなくなっています。

 現在は、胸の筋肉を残して乳房を切除する「胸筋温存乳房切除術」と乳房を残してがんだけを切除する「乳房温存療法」が中心になっています。いずれの場合も、基本的には脇の下のリンパ節も手術時に一緒に切除します 。

●胸筋温存乳房切除術
 乳房のすぐ下には大胸筋、その下には小胸筋という筋肉があります。胸筋温存乳房切除術にも、大胸筋だけを残す方法(大胸筋温存乳房切除術)と両方の筋肉を残して乳房を切除する方法(大小胸筋温存乳房切除術)があります。
 リンパ節転移が多い場合などは、リンパ節を確実に切除するために、小胸筋を切除することがありますが、最近は両方の筋肉を残して乳房を切除するケースが多くなっています。腕を動かす時に使われるのはおもに大胸筋なので、この筋肉を残すだけでもハルステッド法に比べればかなり障害は少なくなります 。

●乳房温存療法
 乳房を残して、がんの病巣のみを切除する方法です。実際には、がんの病巣を中心に安全を見込んで大きめに切除し、手術後は放射線を照射します。この治療法は、手術によってできるだけがんの病巣を切除し、残ったがんは放射線治療で叩くというのが基本的な考え方です。したがって、放射線治療は必須です。また、切除した組織の端(断端)を検査し、取り残しがあれば乳房切除術が行われることもあります。

 基本的には脇の下のリンパ節転移があるかどうかにかかわらず、がんの大きさがおおむね3センチ以下で、がんが乳管の中に広範囲に広がっていないこと、がんが多発していないこと、放射線治療ができることが適応の条件とされています。ただし、施設によって考え方には多少違いがあり、もっと大きな乳がんにも適応しているところもあります。そのため、日本全国では40%ぐらいに温存手術が行われていますが、施設によっては8割を越えるなどかなり差があることも事実です。

●補助療法
 手術後、切除したがんの大きさや性質、リンパ節転移の有無などを調べ、抗がん剤やホルモン療法による術後補助療法が行われます。手術時には肉眼では見えなかったようながんを補助療法によって封じ込め、再発を防ぐことが目的です。一般 的には、脇の下のリンパ節転移の数が多くなるほど、再発の危険が高くなると考えられています。そこで、その数などを指標に補助療法の強さが決められます。


 ホルモン療法は、抗がん剤に比べて副作用が少ないのが利点です。ただ、ホルモン療法は、エストロゲンに対してがん細胞が感受性があることが前提となります。これを調べるために、乳がんにホルモン受容体があるかどうかを調べます。約6割の人は、ホルモン受容体があります。この場合は、ホルモン療法が優先して行われます。これにも、エストロゲンの働きを抑えるタモキシフェン、卵巣からのエストロゲンの分泌を抑えるLHRHアナログ(閉経前の女性が対象)、副腎から分泌された男性ホルモンをエストロゲンに変えるアロマターゼという酵素の働きを阻害するアロマターゼ阻害薬(閉経後の女性が対象)などがあります。

 ホルモン受容体が陽性の場合には、状態に応じてこうしたホルモン療法を単独、あるいは組み合わせたり、抗がん剤と併用して補助療法が行われます。とくに、タモキシフェンは飲み薬で副作用が少なく、欧米の大規模な臨床試験で再発予防効果が認められたため、よく使われています。少なくとも2年、原則としては5年間服用を続けます。

 一方、ホルモン受容体がマイナスでホルモン療法の効果が低いと判断される場合は、抗がん剤を主体に補助療法が行われます。抗がん剤は、数種類を併用して投与します 。


乳がんの治療法

 乳がんもIV期になると、がんが他の臓器に転移しているので、局所のがんを切除する手術療法では対応できなくなります。この場合は、全身のがんを攻撃できる抗がん剤やホルモン療法が中心になります。

 再発した場合も同様です。いずれの場合も、基本的にホルモン受容体が陽性の場合は、体に負担の少ないホルモン療法が優先して行われます。すでに補助療法であるホルモン剤を投与していた場合は、それ以外のホルモン療法を行うことになります。また、ホルモン療法も長く続けていると、やがて効果が落ちてきます。こうなった場合は、別のホルモン療法を行い、それも効果がなくなった場合には、抗がん剤治療を行います。ただし、これは原則的な考え方で、抗がん剤とホルモン剤を組み合わせたり、がんの進行が早い場合は最初から強力な抗がん剤を使うこともあります。

 ホルモン受容体がマイナスの場合は,抗がん剤を組み合わせて使っていくことになります。抗がん剤治療は、数種類の抗がん剤を組み合わせて使うのが基本で、乳がんの場合最初は、シクロフォスファマイドやアドリアマイシン、5FU、メソトレキキセートなどを組み合わせて使う治療がよく行われています。抗がん剤も、長く使っているとがんに耐性ができて効果が落ちてくるので、その場合はタキソールなど別の抗がん剤を軸とした治療を行います。

 さらに、最近まったく新しいメカニズムで働く治療薬が使えるようになりました。これは、トラツズマブ(ハーセプチン)という抗体です。病原菌などの異物が体内に侵入すると、私たちの体の中では免疫反応が起こります。つまり、異物に対する抗体が作られ、異物を攻撃、排除します。これと似た仕組みで、乳がん細胞の目印(HER2受容体)に取りつき、がんを攻撃するのがトラツズマブという人工的に作られた抗体です。従来の抗がん剤と違って、HER2という目印を目標に、乳がん細胞だけを攻撃するので、副作用が少ないのが利点です。

 HER2を攻撃目標として作用する薬なので、この薬が使えるのはがん細胞にHER2がたくさん現れている人に限られます。乳がんの25〜30%にはHER2が強く発現しています。HER2が強く出ている人(3プラス)にしぼってトラツズマブをタキソールなどの抗がん剤と併用して使うと6割の人に効果があると言われています。国内で行われた臨床試験では、転移したがんが消えた例も報告されています。効果 がある限り、使い続けるのが原則です。

 このように、乳がんの場合は再発・進行がんであってもいろいろな手法を使って、命を永らえる工夫が行われています。


監修者:聖路加国際病院外科 中村清吾 先生

乳がん検診については、「乳がん検診を受けましょう」をご覧下さい。

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